第1回 「弱者の視点」からグッドデザインを探してみた
さる8月24日から26日まで東京ビッグサイトで開催された「グッドデザインプレゼンテーション2007」。どのような展示会なのかは、公式サイト(http://www.g-mark.org/gdp/2007/)に詳しいわけですが、主催者の(財)日本産業デザイン振興会の案内を要約すると「日用品から先端技術まで幅広い分野から、今年度にグッドデザイン賞に応募された約2,200件を展示、デザインのもつ魅力や可能性を楽しく理解しながら、デザインを通して日本の現在を示すショーケース」となっています。グッドデザイン賞を受賞すると、おなじみの「Gマーク」を使用できるようになります。このあたりの仕組みは、http://www.g-mark.org/index.htmlを参照してみてください。
空間通信の編集部は、24日のプレス向け発表会に出席。筆者は続く25日にも会場を訪れて、展示だけでなくトークショーや公開プレゼンテーション審査会のようなステージプログラムも可能な限り見て来ました。その感想を、このブログのオープニングテーマにしてみましょう。
■01年から開催、06年は50周年を記念
この「グッドデザインプレゼンテーション」は、2001年から開催されていたようですが、筆者
にとっては昨年(06年)が初めてのことでした。そこでは、グッドデザインの50周年を記念して、生活者の記憶に残る代表的なデザイン(例えば高度成長時
代の電気釜もあったように記憶します)が展示されており、グッドデザインそのものを理解できたたいへん有意義な展示会でした。さらに60年代からの国産車
の名車を約50台、メーカー毎に展示したモーターマガジン社の『Japan’s Greatest Cars
2006』は特に印象深い展示でした。国内でこれだけの過去の名車を常設空間で見学できるのは、「トヨタ博物館」(愛知県長久手町、http:
//www.toyota.co.jp/Museum/index-j.html)または「伊香保おもちゃと人形・自動車博物館」(群馬県吉岡町、
http://www.ikaho-omocha.jp/)に限られるでしょう。なお「伊香保おもちゃと人形・自動車博物館」ですが、もともとは「伊香保
おもちゃと人形博物館」で、空間通信発行の「レトロの集客活性力」第1号に取り上げた集客施設(http:
//www.fantastics.co.jp/retoro.htm)です。それが2004年に自動車博物館を加えて、現在の形にリニューアルオープン
しています。
総じて06年はグッドデザインを知って楽しむ、知的活動を満足させたイベントでした。それから1年、前年にグッドデザインへの入門
も済んだことから、今年は興味本位・抱腹絶倒・周章狼狽することなく、あくまでも施設空間のマーケッターの視点を持って、冷静に見学できました。
■豊かな社会に普及すべき「優れたデザイン」
結論を言えば、06年ほどの感動や満足はなくて、むしろ疑念のみが残ってしまったのです。展示
の規模は縮小したとはいえ、2,000点以上の展示はバラエティに富んでおり、昨年と比べてその勢いは遜色ないとは思いました。それでも会場を離れた自分
に残っていたのは、焦燥感だったのです。この展示会の経験はひょっとして「セカンドワールド」でのバーチャル体験ではなかったのか。そんな違和感もあった
ように覚えています。
展示されている2,200件に及ぶ商品やサービスは、少なくともグッドデザインの意義やコンセプトを理解して、応募をされているわけです。主催者の日本産業デザイン振興会は、グッドデザイン賞を次のように規定します。
・・・
単に美しさを競うデザインコンペではありません。「優れたデザイン」を社会に普及させていくことで、私たちの生活をより豊かにすることと、産業の発展とを
同時に後押ししようとする活動です。(中略)行政、企業、デザイナー、そして生活者が一体となってより豊かな社会を実現するための運動であるろいうことも
できるのです・・・
奇抜でインパクトがあって、未来的な外観や機能あるいはその複合だけではグッドデザインとはならないわけで、そこにどれだけ
社会性が反映されているのかが大事だというわけです。そこで、07年のこの展示会においては、この「社会性」がどれだけ表現・訴求されているかにこだわっ
て取材することにしていたのです。
■「やさしさ」や「喜び」のデザイン価値観に着目
特にこだわってみたのは、「豊かな社会を実現する運動」である以上、豊かさに条件や差別
があってはならないはずで、どれだけ弱者(経済、情報、身体、生活等)の視点が反映されているのかという点です。なかでも2018年には65歳以上が約
3,538万人、人口の4割を占めるという高齢化する日本社会において、介護・福祉と同様の「やさしさ」や「喜び」を価値観とするデザインの可能性に着目
してみたのです(これは、ユニバーサルデザインの有無や進化の確認に近い捉え方かもしれません)。
実際、『オフィシャルガイド』に収録されている「Gマーク及びデザインに関する調査結果」(05年)によれば、今後重要となるデザイン領域について、最大の約55%が「高齢者や社会的弱者に配慮したデザイン」を挙げています。
結果的に、この価値観が感じられた展示は、いくつかの介護用品等を除いて圧倒的に少数でした。残念だったのは、専用のブースを構えて、そこで自らのデザイ
ン活動や研究の成果を訴求していた大学各校です。どこも弱者への発想が見られず、「新しい社会、新しい産業形態、それに伴う新しいデザインのあり方が求め
られている」(内藤廣審査委員長のメッセージ)時代の再認識が必要のように感じました。
社会創造と密接な「空間」関連では、都市開発から住宅・マンション、オフィスまで多数の展示があるなかで、商品機能としてのユニバーサルデザインを除いて、弱者のやさしさや喜びをイメージできたのは数例でした。そのなかで印象に残ったのは次の展示です。
まず、外周約183m、内周約108mの大きな楕円をした幼稚園「学校法人みんなのひろば藤幼稚園」(株式会社手塚建築研究所、http:
//www.tezuka-arch.com/japanese/works/fuji/01.html)。
“既存樹木けやき3本(1本25m、1本
15m)が建築を貫き、室内は家具で緩やかに区分された1つの大きな空間になっている。仲間外れがなく行き止まりのない園舎を560人の子ども達が毎日走
り回っている”との説明の通り、子供でなく身体的な弱者が主役であってもストレスなく行動可能で、
コミュニケーションを活性できる可能性を強く感じまし
た。
京都市の中心部で、町家や路地が数多く点在しているなか、高齢者福祉施設、高等学校、地域交流施設といった複合施設の中を自由に通り抜け
ることができる環境開発である「本能ノ辻子」(京都市、株式会社安井建築設計事務所)では、パネル説明で見る限り中核施設に高齢者福祉施設を位置づけてい
るようで、これからの介護サービス事業所の立地やデザインのひとつの方向性を示しているように感じられました。
空間以外では、三菱ふそうトラッ
ク・バス株式会社の大型観光バス「エアロクイーン&エアロエース」(http://www.mitsubishi-
fuso.com/jp/news/news_content/070615/b070615.html)を紹介しておきましょう。「自動車部門公開プレ
ゼンテーション審査」で同社のデザイン部からの実直なプレゼンテーションを含め、実車を展示しており、客席に乗り込むことができました。ポイントは、エン
トランス部分に、“緩やかに室内へいざなう螺旋階段に連続手摺を設けた”ことです。これによって、足に不安のある高齢者が、乗り込むだけなくバスから降り
る際にも手摺を握ってバランスを保てるようになっています。これについて審査委員の評価も高いようでした。しかし介助が必要などハンデがあると、エアロク
イーンでの観光バス旅行はあきらめなければならないようです。
■最後にいくつか気がついたこと
グッドデザイン・プレゼンテーションは一般の展示会と違って、出展者からの説明員は不在です。2,000
を超える展示の内容は、各展示台に貼られたA4状の説明書き(公式サイトにも同様の内容が収録されている)に頼らざるを得ません。
まあ、見て、感じて、可
能なら触って感じて欲しいという意図なのでしょう。それにしても説明書きはサイズも文字サイズも小さく(オフィシャルガイドも同じです)、記載内容を読ん
でいくのは、老眼鏡を手放せなくなった自分にとって、非常につらい作業となりました。展示台を含めたデザインバランスから決められているのでしょうが、点
字の対応、車椅子での視点との関係などを含めて、再検討いただきたいものです。
また、トークショーや出展企業のプレゼンテーションが行われた
「センターステージ」は、混雑時に来場者はステージの周囲を取り囲むことなり、隣接するブースの邪魔にならないように・・・等と注意を喚起する始末でし
た。どうも客席の絶対数が不足してようで、パイプ椅子を並べただけなのですが、増減に柔軟に対応できない様子で、またプレス席と一般席の指定が混乱して、
多くの立ち見があるのに空席が生じるといった状況が見られました。来場者のみなさんは非常に熱心で、トークショーは多数が集まるほどのにぎわいだったゆえ
に、来場時のミネラルウオーター無料配布は猛暑の中とても気の利いたサービスだったゆえに、プログラムでのホスピタリティ不足は残念です。来年は、イベン
トそのものを「グッドデザイン」にレベルアップして欲しいものです。
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