高千穂が呼んでいる
最近のことですが、銚子電鉄(千葉県銚子市)の“ある話題”がホームページ掲載をきっかけにネット、マスコミと拡大、これによって同電鉄は大きなプレゼントを得られたのです。
その話題というのは、06年11月に同社ホームページに突然「緊急報告」として、「電車の法定検査の費用が資金不足で捻出できず、2007年の元日以降、現在のダイヤで運行できなくなるかもしれない」とのメッセージがアップされ、その解決のために「ぬれ煎餅や電車グッズを購入してほしい」との切実な呼びかけが労使一体でなされたことです。
「ぬれ煎餅」というのは、地元・銚子の代表的な醤油を使った専用の醤油だれに焼いた煎餅を数秒漬けた煎餅です。同社では1995年から、鉄道会社としては初めて自社での製造販売に取り組んでいます。これは大ヒット商品となって、鉄道部門の倍以上、年間2億円以上の売上を同社にもたらしています。
銚子電鉄は、昭和60(1985年)年のNHK朝の連続テレビ小説「澪つくし」の舞台として、沢口靖子演じる主人公・かをるの通学や日常風景に同社の鉄道風景が取り上げられ、その存在が一躍全国区となりました。しかし、全長6.4Km、その気になれば歩ける距離を結ぶローカル鉄道で、沿線の観光資源といっても犬吠埼他これといったものがありません。“澪つくし”ブームが去ってからは、1両で海沿いをゴトゴトと走る鉄道そのもの、そして副業として「ぬれ煎餅」を初めとする特産品や土産品の製造販売で命脈をつないで来たのです。
■訴えが評判となり、予想以上の支援を得る
関東運輸局からの「鉄道事業法第23条に基づく施設の改善と安全管理の徹底を求めた業務改善命令」への対応を要因として発信された“ぬれ煎餅を買って欲しい”メッセージは、ネットとマスコミを通じてあっという間に全国に発信され、多数の支援が集まったのです。
同社によれば、「ぬれ煎餅」等で1万件を越える注文、「サポーターズ会員」による枕木購入代金の寄贈970万円、電車内の広告、弊社で手が回らなかった各駅の清掃等々、数え切れない程の支援があったほか、多数の電車利用もあったそうです。
こうして同社は、国土交通省関東運輸局発令による改善命令の履行を完了、さらに3両目の電車の修理を始めることができたたのです。
■九州山地の中、再生に挑む神話高千穂トロッコ鉄道
そしてもうひとつ、事情は違いますが、鉄道再生のために善意の寄付とサポーターの支援を求める鉄道があります。それが「神話高千穂トロッコ鉄道」です。日本書紀の神々が降臨した九州山地、宮崎県高千穂町と太平洋岸にある延岡市を結んでいた第3セクター・高千穂鉄道が、台風被害によって事業撤退を余儀なくされた後、その一部区間の再生を目指しているのです。
当初は旧高千穂鉄道の全線区間の復活を求めて、事業主体に高千穂町の観光協会等が中心となって神話高千穂トロッコ鉄道(株)を設立。しかしあまりの台風被害に復旧コストをカバーできずそれは断念、高千穂町内を中心に被害が小さい区間を再生させる状況になっています。
国土交通省は、旧高千穂鉄道か同社への譲渡・譲受認可申請に対して、増資と支援金による資金調達がはっきり見えないと指摘。つまり金庫に必要な分のキャッシュがないと認可しないというわけです。
そこで、地元のみならず、全国を対象に同社の実情を公開した上で、2007年5月から支援金(基本は一口5,000円)の募集をスタートさせました。この原稿を書いている段階で、同社のホームページによれば、目標の2億円に対して10月17日現在約3,700万円となっています。支援金は毎日少しずつですが確実に増えていますが、必要額の2割程度に止まっているのが現実です。
日本経済新聞の報道(07年6月)によれば、旧高千穂鉄道は休止を届け出ている高千穂—槙峰間(約20Km)について、2008年1月1日付で廃止を届け出るといいます。受け皿となる神話高千穂トロッコ鉄道(高千穂町)が資金不足のため、営業権などを譲渡する決議を見送ったというのです。
■過疎地域、中山間地域の明日に鉄道の継続を
以上が一般報道等に見る現在の状況です。率直に言って、メディアを通じて流通する情報で見る限り、再生はかなり厳しいように感じます。
銚子電鉄の“成功”は、1)富も人も集中する首都圏にあった、2)東京から日帰り圏にあったこと、3)一定の知名度があった、4)経営には混乱があったが、基本的に地元支える意志があった、3)小規模故にランニングコストも小さい、そして5)小型電気機関車など、鉄道そのもにロマンがあって、観光資源になりえたことにあると思います。
これを神話高千穂トロッコ鉄道にあてはめてみると、1)過疎地にあって、近隣に都市集積がない、2)日帰りよりも宿泊してこそ楽しめる(まち資源の真価を発揮できる)、3)地元以外の知名度は鉄道ファン層が中心、
4)地元の支える意志は強い、5)鉄道そのものより車窓からの沿線景観が観光資源になっている等、同じローカル線といっても事情は大きく異なると仮説できます。
東国原知事は何をしているかというと、マニフェストに「高千穂地域の交通基盤整備の支援(デュアル・モード・ビークル=DMV=などを視野)」と掲げています。本人もJR北海道が開発した、線路と道路を両方走れるDMVを北海道まで出向いて試乗したそうです。
というのも、同線の前身である旧国鉄高千穂線は、延伸して現在の南阿蘇鉄道と連絡する計画でした。こちらの南阿蘇鉄道もDMV導入を考えているようで、実現すれば延岡—高千穂—阿蘇の、台風では荒れ狂って鉄道廃止の原因となった五ヶ瀬川沿線と神話の高千穂、そして阿蘇平野を結ぶ観光ルートをアピールできそうです。
■現地の熱意、声が不可能を可能にする
私がはじめて高千穂に行ったのは、高校生の時分、延岡から高千穂線経由でした。次は観光バス。そして九州を離れてからは、ほとんど阿蘇の方からレンタカーで高千穂の奥深い風景、高千穂峡の異空間を経験してきました。そのたびに、心も身体も再生できたように感じています。延岡に路線がつながらなくなった現実は現実として、日本各地のトロッコ鉄道のように、小規模であっても最大の乗車感動をお客さまにできる観光サービス業として、これからもその姿を残して欲しいのです。
鉄道でなくてもバスがあるじゃないか。いや、鉄道でないとダメなんです。同じディーゼルエンジンであっても、レールを走る共鳴音こそが高千穂のサウンドスケープにふさわしいのです。鉄道だから時速20〜30Kmが快適なのです。
鉄道の再生には宮崎県、高千穂町そして住民の協力は欠かせないわけですが、みなさんどのようにお考えなのでしょうか。現実が、真実を知りたいのです。話を、気持ちを知りたいのです。いてもたっても居られない心境です。運命の12月を前に、必ず高千穂の町に向かうことを誓います。
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